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とても年の離れた従兄に医者がいまして。
昔、うちの父が雑談がてら従兄に聞きました。

「餅とか魚とかの焦げを食べたらがんになるって言いますやん?ほんまやの?」



従兄はニコニコしながら言いました。

「うーん。実際因果関係ははっきりしないと思うけど、炭は食べ物じゃないしねぇ。そういう意味で食べんほうがええんとちゃうかなー」

なるほど。






昨日真っ黒に焦げた餅の炭をガリガリこすり落としながら、私はその話を思い出した。
食べ物だった餅だけど、焦げたところは餅じゃなく炭。だから食べ物じゃない。
そう思えば何の躊躇もなく「食べない」を選択できる。


ふーん。合理的な考え方だなあ。


私は餅を食べながら、愛想よく診察する従兄の顔を思い浮かべた。


私は医者になりたいと思ったことがない。
家族にも医者であってほしいと思ったことがない。
尊い仕事ではあるが、病人を助ける仕事である反面、死体を触る仕事でもある。
医学部の学生の中には解剖実習に慣れるまで大変だったという人も。
あの従兄もそれを乗り越えて医者になったわけだ。
しかし私は、死体を見る勇気も、触る勇気もない。
怖くて仕方がない。


急に頭の中でカシャリと嵌った音がした。


真っ黒焦げの食べものは、食べ物じゃない。


死体は、生者じゃない。

そう思えば、医者になるための勉強の為に死体に向き合うことが、少しは楽になったのではないだろうか。

そう思わないと、いちいち泣いたり怖がったり苦しくなって、医者としての任務が果たせないのではないか。

医者は患者に向き合うときに、病状を客観的に見極めることが、適切な治療をするためにまず必要であり、治療法をその患者に当てはめるときにその人のことを考える~そういう手順で思考を切り替えて患者と向き合っているのではないかと、私は想像する。


物事を判断するときにプロセスの確認から入らず、物を客観的に観察すること。それがブレない判断をするために必要である。
いつもその逆ばかりしていた私には、今更な新鮮な気付きだった。


炭は食べないに越したことはない。

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