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ほんとのこととか作り事とかいろいろ書いています。
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『美化』
電車を待ちながら駅を見回す。
ホームの汚れがとても気になる。

床が汚い。まあ、土足で大勢が歩くのだから仕方ないと言えば仕方ない。
だけど、屋根のある部分だけでもきれいならよいのにと思う。
壁が汚い。黒い煤が一面を覆っていて、もしも壁にもたれたなら間違いなく服が汚れてしまう。
これは地下道なんかでもよくある。
公共の地下道ならやはりこれも仕方ない気がするが、例えばヒゴバシ駅からフェスティバル西棟につながっている比較的新しい地下道は仕方なくない気がする。フェスティバル西棟の高層階にはコンラッドホテルという高級ホテルが入っている。壁に大きく掲げられている広告の一つは、同じくそのビルに入っている香雪美術館の美しい収蔵品の写真である。
でも全面煤だらけで、もしも人とすれ違う時に壁にこすってしまったら、確実に服が真っ黒になる。
柱も然り。エスカレーターの踏み板?の溝の中も然り。

ある日私は一念発起し、ボランティア団体を発足した。
名付けて「美しい駅を創る会」。・・・まんまじゃないか。仕方ない。
あなたの駅を美しく変身させませんか?という勧誘の言葉に集まったのは10人の駅利用者。
19歳の大学生から、30代の会社員、そして60過ぎのシニアもいる。
私達はある駅と電鉄会社に頼み込み、ラッシュ以外の時間帯のうち毎回1時間、3m四方くらいのホームを磨く組とホームの柱と壁を端から順に磨く組に分かれて活動させてもらった。
少量の水をまきデッキブラシでごしごしとこすり床を磨いていく。壁の担当は乾いた布でざっと埃を撫で落とし、そして拭き上げる。
最初はけげんな顔をしていただけの駅の利用客の中には、「何をしているんですか?」と尋ねる人もあり、また、面白がって次の活動日に参加してくれる人もいた。
そうやって掃除ごっこを始めたのだが、いつの間にか人数が膨れ、電動のポリッシャーを持ってくるものやスチームで汚れを落とす掃除機を持参する者もあらわれた。洗剤の寄付やワックスの提供など、企業からの協賛もあり、駅一つ磨き上げたころには「うちの駅も」と注文が入るようになり、メンバーの一人の提案で、とうとう会社を立ち上げて有料で駅磨きを請け負うことになった。
私達は2つ目の駅、3つ目の駅と精力的に駅を磨き、社会から高い評価を得ることができた。私たちの磨き上げた駅は新品にはない「愛着の感じられる美しさ」と讃えられ、駅のあちこちで記念写真を撮る人が見かけられるようになり、ドラマの撮影にも人気であった。
しかし活動が軌道に乗って数か月たつと、なぜか退職するひとが増え始めた。ボランティアから始めたメンバーばかりである。
「あの頃は楽しかった」
皆がそう言い残した。
普段電車の乗降する場所としてしか捉えられていなかった場所で、他人が「え?」と思うような活動することが楽しかった。
給料をもらって仕事として清掃するのでは、何の特別感も感慨もわかない。


そういうわけで私たちは会社をたたみ、最近は場所を決めずに活動している。
知らない町を散策し、道端の草を抜いたり植栽を整えたり、側溝のゴミをさらったりしてピンポイントの美化をしてそそくさと立ち去る。
もしも私たちの活動に共感していただけるならば、あなたも草一本抜いてみてほしい。
何も報酬はないけれど、きれいにしたいという気持ちが増えることに、意義を感じるから。


※もう☆そうシリーズはノンフィクションであり、書かれているのは架空の個人や団体です。


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『ドリル』
 雨が降ると道が浅い川になり、5m置きにある排水溝も、詰まっているのか役に立たなくなる。
川にならなくともアスファルトは、晴れの日には気が付かない程度のデコボコのせいで、道幅いっぱいに広がる浅い水たまりの集合になり、靴を濡らさずには家に帰れなくなる。
古い歩道橋の上り口も、長年踏み均されたせいか帯状のくぼみができており、端から端までどこを選んでも、水たまりを避けて階段を上り始めることができない。

 電気ドリルを持ち、この道のあちこちにずぶずぶと穴を開けたなら、少しは水はけがよくなるのだろうか?積もって固まった排水口の底の土も、ドリルでずぼずぼ穴を開けてやれば、容易に掻き出せるようになるのではないだろうか。
 そんなことを考えながら下手くそに傘を差し、肩を濡らしながら歩いている。

 毎週1回。もしくは隔週1回でも、私が排水口の土をシャベルで掘っていたならば、俺も私もと暇で元気なおじさんおばさんが参加してはくれないだろうか。それとも勝手に触らないでと管理人が飛んでくるのだろうか。業者に頼んで町中の排水溝や水たまりを修理するだけの財力は、この町にはない。ならばボランティアでも安いアルバイトでも使って、少しずつでも修繕していくことが、生活のしやすさにつながるのではないのだろうか。

 クラウドファンディングで資金を募っても、この町だけに還元できないのならば、協力は得られない。この町の中だけで募ってもだめなのかな。だめだろうな。そうなのかな。

 それを実際にやってみる、そこから起業につながることもあるのかもしれないけれど、生憎それだけの若さも体力もなく、傘を閉じて雫を振り落とし、今日も黙って部屋に帰るのみである。


『水無月』

梅雨の一日は体に纏わりつく湿気で本当に嫌になる。
湿った冷気で満たされた電車を降り、
湿気の中をふらふらと泳ぐようにして家にたどり着くと、
テレビの音だけが小さく聞こえていて
ああ、またあの人たちはやっているのか
とうんざりする。
タンクトップと半パンの姿になり、台所に立つ。
ネギは断面が美しい丸になるよう、よく研いだ包丁で小口に切り、
卵を薄く焼き細く刻み、沸いた湯に鰹節をたっぷりと放り込み出汁を取る。
硬めに茹でた素麺は三輪が産地の、ボタンを付ける木綿糸のような細さだ。
ざるにとり、流水で洗い、冷やした器に盛る。
そして、居間のガラスの水槽に向かって言う。
「暑いからって、もういいかげんにして」
肘まである水槽の水に手を差し入れ、水を搔くとキャッキャッと笑い騒ぐ声がして
指の間をするすると潜り抜ける感触がする。
やっと掌にとり、指を丸く曲げて掬い上げると、
「せっかく気持ちよかったのに」
と父と母、そして妹とその子どもたちが涼しげな表情で名残惜しそうに水面を見やり、
また明日やろうねとニコニコクスクス笑いあっている。
皆が食卓に着くとつるつると麺を啜る音がして、
まだ薄明るい夏の夕暮れの団欒の風景になる。



※水無月は、水な月であり、「な」は「の」と同じ意味を持つ連体助詞



街は人気がなく静まりかえっていた。
時折地響きと色々な何かがクラッシュする音が響き渡り、
山腹からのテレビ中継を全世界の人々が息を飲んで見守った。
20年前、地の底からの恐怖に襲われた街が、
今度はいまだかつて誰も経験したことがない天からの脅威に曝されている。
雲の中から突然生えて来ては地面を押し潰す巨大な柱はもう既に7本目になった。
いつ止むかもわからない未知の事態を、
人々はただ、恐怖に目を見開きうろたえるばかりである。

今日は18禁ってことにします。
18歳以上でもお好きでない方はスルーしてね。


ある日気がつくと僕は、歌を聴かなくなっていた。
コートの右ポケットにはいつものように、ミュージックプレーヤーがもつれたイヤフォンとともに突っ込まれているのだが、もう何日も(もしかすると何ヶ月も?)それは取り出されないままになっていて、時々しわくちゃのコンビニのレシートを抱き込んでいる。以前の僕は通勤の行き帰り、まるで外部の音を遮断したいかのように耳をそれで塞ぎ、オフィスの玄関と家の玄関をつなぐ渡り廊下の手摺のように、歌にしがみつき、周囲の雑踏と車の流れから身を避けていた。
なぜならば、舗道を歩く僕の周りには、僕が見たくない現実の景色、人の生活が梅雨の湿気が纏わり付くように蔓延していて、そしてそれは、僕の姿を映し出す鏡でもあり、僕を深い暗いところへ引きずり込んでしまうような気がしていたからだ。
歌を聴かなくなっただけではない。歌は聞こえなくなっていた。
店の中に流れるBGMも、TVから流れ出てくるバラードも、僕の耳には聞こえてこなかった。
たぶんそれは耳にしていても、僕の鼓膜に到達した瞬間に砂のように流れ落ち、そしてどこかへ消え去ってしまっていたのだろう。
歌を聴くときは元気になりたいとき。そう思っていたのだが、人はどん底に足が着いてしまうと、もう歌を聴く力もなくなってしまうのかもしれない。

君の声がかすかに聞こえる。
背中を向けて眠っている君の見えない唇から、か細い、絹糸をこするような声が漏れている。
それはきっと何かの歌。
君の歌がかすかに聞こえてくる。途切れながら、僕の凍った耳に。
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